読者プレゼント

心と身体を大切にしながら働くということ|ウェルビーイングと「生きがい(IKIGAI)」から考える、これからの働き方

キャリア・教育

心と身体を大切にしながら働くということ

——「Yamagata Women’s Link」で考えた、これからのウェルビーイング

先日、オワゾブルー山形で開催された「Yamagata Women’s Link(ヤマガタウィメンズリンク)」に参加しました。

今回のテーマは、

「自分らしい働き方・暮らし方の見つけ方」。

山形県内で活躍する方々をはじめ、起業家、経営者、企業の人事や総務に携わる方、学生など、さまざまな立場や世代の方が集まり、それぞれの経験や価値観を交わしながら、「働くこと」と「生きること」について考える時間となりました。

そこで強く心に残ったのは、

「私たちは、心と身体を大切にしながら働けているだろうか?」

という問いでした。

「働き方」を考えていたら、「命の時間」に行き着いた

パネルディスカッションでは、仕事、家族、子育て、人生の転機、病気を経験して感じたことなど、それぞれの人生を通したさまざまなお話がありました。

その中で、とても印象に残った言葉があります。

「病院に行くつもりで、山や海へ行く」

パネリストのお一人で、山形県上山市にある老舗旅館「名月荘」の若女将・菊池成湖さんの言葉です。

ご自身の大きな病気を経験されたことをきっかけに、意識的に心と身体を休ませたり、自然の中で身体を動かしたり、リフレッシュする時間を持つようになったというお話でした。

山形には、山も海も、豊かな自然もあります。

日々さまざまなことがある中で、自然に触れたり、身体を動かしたり、大切な人と過ごしたり、ゆっくり休んだりする。

そうした時間は、心と身体を整え、健やかに日々を過ごしていくための、大切な時間なのだと思います。

そしてそれは、自分らしく働き続けることや、毎日の暮らしをより豊かにすることにもつながっていくのではないでしょうか。

私は、何かを始めると夢中になり、つい前へ前へと進み続けてしまうところがあります。

けれど、人間は機械ではありません。

心にも身体にも限界があります。

休むこと。

身体を動かすこと。

人と話すこと。

好きなことをすること。

大切な人と過ごすこと。

そして、仕事に力を注ぐこと。

どれか一つだけではなく、そのすべてが人生をつくっています。

「どう働くか」を考えていくことは、突き詰めれば、

「限りある命の時間を、どう生きるか」

を考えることなのかもしれません。

職場を越えて聞こえてきた「心の不調」

今回のイベントでは、5〜6人ほどのグループに分かれ、参加者同士で意見を交換する時間もありました。

その中で特に驚いたのが、職場における心の不調についての話です。

それぞれ異なる職場で働く方々から、

「心の調子を崩して休職する人がいる」

「仕事を続けられなくなってしまう人もいる」

といった話が、次々と出てきました。

もちろん、一つのテーブルで交わされた会話だけから、社会全体を語ることはできません。

それでも、

「こんなにも、いろいろな職場で起きていることなんだ」

と驚きました。

そしてイベント後、改めて公的な統計や研究を調べてみると、心の健康は決して一部の職場や一部の人だけに関係する問題ではないことが見えてきました。

厚生労働省の「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」では、現在の仕事や職業生活について「強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある」と回答した労働者は68.3%でした。

心の健康は、一部の人だけの特別な問題ではなく、多くの働く人に関わる大切なテーマになっています。

「休んでいない=健康」とは限らない

健康について調べていく中で知った言葉の一つに、「プレゼンティーズム」があります。

体調を崩して仕事を休むことは「アブセンティーズム」と呼ばれます。

一方、プレゼンティーズムとは、

「出勤はしているけれど、心身の不調によって、本来の力を十分に発揮できていない状態」

を指します。

会社には来ている。

仕事もしている。

外から見れば、いつも通りに見える。

けれど実際には、

腰が痛い。

肩が痛い。

眠れない。

身体が重い。

心がつらい。

集中できない。

そんな状態で仕事を続けている人もいます。

つまり、

「仕事を休んでいない=健康に働けている」

とは限らないのです。

腰痛による労働生産性の損失は「約3兆円」との推計も

先日、腰痛やストレッチについて学ぶ講座を受ける機会がありました。

そこで知ったのが、腰痛は一人ひとりの身体のつらさだけではなく、働くことや社会にも大きな影響を与えているということでした。

日本で行われた全国の就労者1万人を対象とする2019年の調査では、腰痛によるプレゼンティーズム、つまり「出勤しているものの、腰痛によって仕事の量や質が低下すること」に伴う労働損失が、日本全体で年間「約3兆円」と推計されています。

ここで注意したいのは、

「腰痛の治療に3兆円の医療費がかかっている」

という意味ではないことです。

腰痛を抱えながら働くことで、本来発揮できたはずの労働生産性が失われている。その経済的価値を推計した数字です。

腰痛は、あまりにも身近だからこそ、「これくらいなら」と我慢してしまうこともあるかもしれません。

けれど、身体の不調はその人の生活の質だけでなく、働く力や企業、さらには社会全体にもつながっています。

この数字を知り、身体を整えることの大切さを、これまでとは少し違った角度から考えるようになりました。

心の健康も、「本人だけの問題」ではない

身体だけではありません。

心の健康についても、大きな社会的・経済的影響が研究されています。

厚生労働省が公表している資料には、自殺やうつ病がなくなった場合の経済的便益を、2010年時点で単年約2兆7,000億円とした推計があります。

ただし、これは「現在、うつ病だけで毎年2.7兆円の損失が発生している」という意味ではありません。

自殺によって失われる将来所得や、うつ病による休業・失業、医療費など複数の要素を含み、2010年当時の条件をもとにした推計です。

また、別の厚生労働科学研究では、うつ病性障害について、欠勤、プレゼンティーズム、非就業、死亡などを含めた「間接費用」を約2.9兆円と推計した研究もあります。

推計方法や対象年度、対象範囲が異なるため、これらの数字を単純に比較したり、足し合わせたりすることはできません。

それでも、こうした研究から見えてくるのは、

「心の健康も、一人ひとりだけに任せておけばいい問題ではない」

ということではないでしょうか。

心と身体は、切り離せない

腰痛。

肩こり。

睡眠不足。

疲労。

ストレス。

心の不調。

私たちは、それぞれを別々の問題として考えがちです。

けれど、日々の暮らしの中では、心と身体をきれいに切り離すことはできません。

身体が痛ければ、気持ちにも影響する。

眠れなければ、集中力にも影響する。

強いストレスが続けば、身体にもさまざまな変化が現れることがあります。

だからこそ、これからの「働き方」を考える時には、勤務時間や給与、制度だけではなく、

「その人が、心身ともに健やかな状態で働けているか」

という視点も、とても大切なのだと思います。

「ウェルビーイング」という視点から働くことを考える

近年、「ウェルビーイング(well-being)」という言葉を耳にする機会が増えました。

WHO憲章では、健康について、単に病気や虚弱がないことだけではなく、身体的・精神的・社会的に良好な状態を含むものとして捉えています。

働く人について考える時も、

「病気ではない」

「会社を休んでいない」

というところだけをゴールにするのではなく、

身体が健やかであること。

心が守られていること。

人とのつながりがあること。

自分らしく力を発揮できること。

大切な人と過ごす時間を持てること。

そして、仕事も含めた日々の中に「生きがい」を感じられること。

日本語の「生きがい」は、海外でも「IKIGAI」という言葉で知られるようになりました。

何に喜びを感じるのか。

誰と生きていきたいのか。

どんなことに心が動くのか。

何を大切にしながら日々を重ねたいのか。

働き方や暮らし方を考えることは、そんな「自分にとっての生きがい」を考えることとも、どこかでつながっているように思います。

性別や立場を越えて、「一人ひとりの力」が活かされる社会へ

今回、スペシャルゲストとして参加されていた吉村美栄子山形県知事のお話にも、印象に残ったことがありました。

男性と女性、どちらが良い、そうではないということではなく、

「どちらの力も必要」

というお話です。

それぞれが持っている視点や経験、得意なことや力を活かしながら、より良い社会を一緒につくっていく。

このお話を聞きながら、これは性別だけに限らないのではないかとも感じました。

年齢も違う。

経験も違う。

得意なことも違う。

生きてきた背景も違う。

だからこそ、それぞれが持っているものを持ち寄ることができる。

性別や年齢、立場にかかわらず、一人ひとりの個性や能力がのびのびと発揮され、それぞれの違いが良い形で重なり合っていく。

そんな社会になっていったら、とても素敵だなと思います。

「山形で暮らすこと」を、いろいろな世代と考える

グループトークでは、山形の働き方や賃金、暮らしについても話題になりました。

山形は共働き世帯が多い一方で、賃金についてはまだ課題もあるというお話もあり、

「もっとみんなが豊かに暮らせる山形になっていったらいいな」

と思いました。

山形には、美味しい食べ物があります。

山も海もあり、豊かな自然があります。

そして今回のイベントを通して、何より魅力的な「人」がたくさんいることを改めて感じました。

その魅力が県外や世界にももっと伝わり、地域全体の豊かさへつながっていったら、とても嬉しいです。

そして、子どもを育てやすく、子どもたちが安心して健やかに暮らせる地域になっていってほしい。

私も子育てをする中で、子どもたちが安心、安全に暮らせることは、何より大切なことの一つだと感じています。

世代が違うからこそ、生まれるもの

今回、大学生の皆さんともお話しすることができました。

社会人になってからのことを聞いていただいたり、反対に、学生さんの考え方から教えていただいたり。

世代が違うからこそ、

「そんな考え方もあるんだ!」

という新しい発見があります。

そして、お話ししていて何より伝わってきたのが、

「山形が好き」

という気持ちでした。

地元の良いところを一緒に話せたことも、とても嬉しかったです。

同じ地域に暮らしていても、年齢も職業も、普段いる場所も違えば、なかなか出会う機会はありません。

だからこそ、世代や立場を越えて同じテーブルを囲み、山形について話せたことそのものが、とても貴重な経験だったと思います。

そして、

「山形には、こんなにパワフルな女性がたくさんいたんだ!」

ということにも驚きました。

時間が経つにつれて、会場の温度まで上がっていくような。

それくらい、皆さんのパワーと熱量を感じる時間でした。

「ちょっと知っている大人」がいる社会

そして、あるグループの発表で紹介された学生さんの言葉が、今でも心に残っています。

「ちょっと知っている大人が、もっと増えたらいい」

「ちょっと話せる大人が、もっと増えたらいい」

とても素敵な言葉だと思いました。

家族でもない。

先生でもない。

職場の上司でもない。

近すぎず、遠すぎず。

でも、何かあった時には、ちょっと話せる。

困った時には、少し会いに行ける。

そんな、ゆるやかにつながれる人や「居場所」が、地域の中にいくつもあったら。

人が孤立せずに生きていくための、一つの支えになるかもしれません。

人は、一人だけで生きているわけではありません。

だから、

「生きていくための選択肢は、いくつあってもいい」

と私は思います。

居場所だって、一つでなくていい。

家庭。

学校。

職場。

地域。

趣味の場所。

さまざまなコミュニティ。

どこか一つでうまくいかない時にも、

「ここだけが世界のすべてじゃない」

と思える場所や人がいる。

そんな社会であったらいいなと思いました。

人生を動かす「人」と「環境」

パネリストの皆さんのお話には、興味深い共通点もありました。

人生のターニングポイントや、物事がうまくいかない時にどうするか。

声をかけてもらったら、まず行ってみる。

考えすぎる前に、一歩踏み出してみる。

新しい環境へ飛び込んでみる。

やったことのないことに挑戦してみる。

そうしたお話が、何度も出てきました。

私も20代前半の頃、突然、宮古島へ移住したことがあります。

住む場所も、付き合う人も、出会う人も、環境も大きく変わりました。

今振り返っても、その経験は人生の宝物であり、大きなターニングポイントの一つです。

だからこそ、

「誰と出会うか」

「どんな環境や場所に身を置くか」

ということが、人の人生や可能性を大きく広げることがあるのだと、改めて感じました。

健康を、「本人の努力」だけにしない

もちろん、一人ひとりにできることもあります。

ストレッチをする。

身体を動かす。

睡眠をとる。

休む。

自然に触れる。

誰かと話す。

大切な人と過ごす。

心地よいと思える時間を持つ。

私も今回のイベントや、その後の学びをきっかけに、こうした小さな時間をもっと意識的に日常へ取り入れていきたいと思うようになりました。

けれど同時に、健康をすべて「本人の自己管理」に委ねるだけでは、十分ではないとも思います。

個人が心と身体を大切にすること。

企業が働く人の心身を守り、それぞれの力を発揮できる環境をつくること。

行政や地域が、人々の健康や暮らし、つながりを支えること。

そして、世代や立場を越えて、人と人とがゆるやかにつながっていくこと。

それらが重なり合うことで、

「心と身体を大切にしながら働き、生きられる社会」

に近づいていくのではないでしょうか。

命の時間を、大切にする

今回のイベントへ参加した時、「自分らしい働き方や暮らし方」について考えたいと思っていました。

けれど、さまざまな方のお話を聞き、腰痛やメンタルヘルスについて調べ、人とのつながりについて考えていくうちに、もっと根本的なところへ辿り着きました。

それは、

「命の時間を、大切にすること」。

私たちは、働くためだけに生きているわけではありません。

でも、仕事もまた、人生の大切な一部です。

だからこそ、

仕事を頑張ることと、
自分を大切にすることを、
どちらか一方にしなくてもいい。

心と身体をすり減らしながら頑張り続けるのではなく、

「健やかに生きながら、自分の持っている力を発揮できる」

そんな働き方や社会を考えていく。

一人ひとりが、心と身体を大切にできること。

それぞれの個性や能力を発揮できること。

困った時に「ちょっと話せる人」がいること。

居場所が、一つではなくいくつもあること。

大切な人と過ごす時間を持てること。

仕事や活動、誰かとのつながり、日々の小さな喜びの中に、それぞれの「生きがい(IKIGAI)」を見つけられること。

そして、自分の人生を大切にできること。

そんな社会のあり方もまた、「ウェルビーイング」につながっていくのではないかと思います。

前へ進むことと同じくらい、

「今ここにある命の時間を、ちゃんと生きること」。

山形で暮らす人。

山形で働く人。

そして、これから社会へ出ていく子どもたちや若い世代。

一人ひとりの心と身体が大切にされ、それぞれが持っている力を健やかに発揮できる地域になっていったら。

そして、一人ひとりにとっての「幸せ」や「生きがい」を大切にできる地域であったら。

今回の「Yamagata Women’s Link」は、「働き方」から始まり、「心と身体」「人とのつながり」「地域」、そして「どう生きるか」まで考える、とても豊かな時間となりました。


参考情報・出典

※経済損失に関する数値は、調査対象・年度・推計方法・「損失」の定義がそれぞれ異なります。本記事では単純比較や合算はせず、それぞれの研究が示した範囲で記載しています。

・厚生労働省
「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概要」
仕事や職業生活に関する不安・悩み・ストレス等についての統計。

・厚生労働省
「令和6年版 厚生労働白書―こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に―」
こころの健康、働く人のストレス、社会とのつながり等について掲載。

・厚生労働省
「自殺・うつ病等の現状と今後のメンタルヘルス対策」
自殺・うつ病による社会的損失に関する推計を掲載。

・厚生労働科学研究成果報告書
精神疾患の社会的コストに関する研究
うつ病性障害について、プレゼンティーズム、アブセンティーズム、非就業、死亡などを含む間接費用を推計。

・Sugano R. et al.
“Musculoskeletal pain in Japanese workers and the relationship between labor productivity by presenteeism and chronic musculoskeletal pain: a cross-sectional study”
Environmental and Occupational Health Practice, 2019.

・日本臓器製薬株式会社/東京大学医学部附属病院との共同研究
全国の就労者1万人を対象とした2019年調査をもとに、腰痛によるプレゼンティーズムの労働損失を年間約3兆円と推計。

・World Health Organization(WHO)
“Constitution of the World Health Organization”
健康の基本的な考え方について参照。

この記事は役に立ちましたか?
スピリットアーティスト

人の内側にある光や可能性を、対話を通して受け取り、色と言葉で一枚のアートに宿すスピリットアーティスト。「その人が本来もっている輝きは、いつでも、どんな時でもその人自身の中にある」という想いを軸に、パーソナルオーダーアートの制作・展示活動を行う。 THE WING TOKYO 2025での展示・スピーチ登壇、HACKK TAG GALLERY帝国ホテル大阪アートコンテスト展示選出(2026年8月)、NY公募展「アートインキュベーション」入選、Webメディア『プロフェッショナルの選択』取材・掲載、ウィングストン・ジャパン財団との連携・コラム寄稿、などの実績を持つ。現在、名月荘・KANEDA鍼灸マッサージ店(山形県上山市)・石垣島のお宿で常設展示中。

関連記事

目次